undergarden

列車小景

東京駅からの最終電車に乗ると、通路を挟んだあちら側に、まっすぐ伸ばした背中にリュックを背負ったまま、両手でぎゅっと切符を握りしめて車内案内を見つめている少年が座っていた。

車窓に流れる景色になど目もくれず、車内案内板に流れる文字を一文字も見落とすまいと凝視していたが、緊張は徐々に解けていく。大宮を過ぎるころには、眠りがゆっくりと少年を包み始めていた。

高崎を目前に、降りる人の列が通路にできると、少年は急に目を見開き慌てて周囲を見回す。人の頭の先に見え隠れする案内表示を、身体を斜めにしながら読み取り、再び腰を落ち着けた。そしてまた、ゆっくりと舟を漕ぎ始める。

降りる駅を聞いておこうか――いや、降り過ごすのもまた旅か、と思いながら一駅が過ぎた。

二駅目の直前、がたん、と少年は椅子からずり落ち、あわてるように腰をかけ直す。ちょうど次の停車駅のアナウンスが響き、眠りながらも握りしめていた切符から左手をようやく離すと、傍らに置いていたビニール袋の口を再びしっかりと握りしめ、何度も何度も、忘れ物がないかと座席の下まで確認してから、無事に降りていった。

来たのか、往くのか。いずれにせよ、春。