undergarden

水月

ふと視線を窓に向けるとカテーンの隙間から白み始めた外が伺える。時計を見るとまだ4時過ぎで、体感よりも大分早く夜が明けるようになっていた。夕方も夕方で、よし、と顔を上げる頃には既に暗くなっていたのが、まだ明るく、何も変わりはしないのに、さてどうしようか、と一瞬悩み始める仕草が起こる。5月に生まれたから、という分けでもないだろうけれど、ここの所は非常に過ごしやすい。布団も服も1枚剥がされて動きやすく、だからといって動いているわけでは無いが腹が減る。特売日を狙ってスーパーへ行き、珍しく野菜も買う。一番好きかと言われれば、違う、と答えるけれども、何も捉えずにいられる好い季節に入った。
聴覚とはなんだ、と最近少々騒がしい深夜のアパートに響く音を聞きながら思う。死の間際まで音だけは聞こえている、といつか誰からなのか、本で読んだのかは覚えていないけれど、父が死んだ時には既に知っていた。あの時も聞いている、とは思っていなかった。聞こえていると思っていた。実際、このアパートの音も聞こえている。聞いているわけではない。じゃあ一体いつ聞くんだ、音楽だって聞こえているから聞いているわけで、と卵が先か鶏が先か、というような所を巡って、結局、死んでから初めて聞くんじゃないか、と辿り着く。辿り着いてすぐに、死んで何を聞くんだ、と骨に開いた穴が思い浮かぶ。

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